運命の男

2005年12月22日
■運命の男 
出会ってしまった。

激しい思いは無いけれど、「あぁ。そう決まってたんだ」と、頭をポリポリかいて、私たちは改めて挨拶を交わした。

こんばんは。
ご無沙汰。
今までどこに?

僕はあちこちに。
君は?

私も、のらりくらりと、色々。

もう少し早くあえると思っていたんですがね。
ついつい寄り道が多くてね。

あなた、そういう人だったわ。
勝手よね。私のことなど忘れたんじゃないかと、冷や冷やした時もあったものよ。

なぁに。案外、君は一人を楽しんでいたんじゃないか?
また僕とうんざりする位、長い時間を過ごして行くんだから。

そうね…。

否定しないのか?傷つくよ。

彼は胸に手をあて、少し苦しげな顔をした。
私はグラスに残った炭酸に視線を落とした。

さっきまで美しく見えた金色の泡が、今はタダの炭酸に見える。
そういうこともあるのだ。

またこの人と出会ってしまった。
一人でいる時は、未だ見ぬ彼を思い、辛いような切ないような甘美な憧れを抱いていたのに、出会ってしまうと「こんなものだった」と、ホッとするのと同時に、少し苦い気持ちになる。

彼は私の腰に手を当て、店の出口に向かった。

もう少し、ここにいたかったのだけれど。

僕もだよ。
でも少し疲れたんだ。

私も。
そういわれて見ればそういう気がしてきたわ。
疲れた。あなたに会うまでボロ雑巾のようになっていたわ。
そして一人の時間があったからこそ、あなたの価値を考えることが出来たわ。

惚れ直した?

そうね。これから惚れるところよ。

僕もだ。

ドアの前で立ち止まり、私たちは、お互いをいとおしむ様に微笑んだ。懐かしい暖かさだった。

戦友であり、兄弟であり、夫婦だったころの空気をお互いに思い出し、ため息をついた。

とりあえず、現世で再び会えたことに乾杯しにいこう。

彼はドアを開けた。

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